岡山県倉敷市にあるパティスリーオクサリス オーナーシェフ蔭山泰典さん。蔭山さんがお菓子づくりの道を選んだ経緯や店名の由来についてお話を伺いました。
蔭山シェフは子どもの頃からケーキやお菓子がとくに好きだったわけではなく、企業へ就職し不思議なご縁に導かれるようにパティシエの世界へと進むことになります。
学生時代はテニスでインターハイや国体に選抜されるほどの選手でした。しかし、そこで結果を出すことができず、就職という道を選びます。職場の実業団でテニスは続けるも競技と仕事の両立に心のどこかで不安を感じていました。
そんなとき、友人の誘いで大学の学園祭に行くことに。そこでたくさんのパンフレットが置いているコーナーがあり、なにげに掴んで持って帰ったのが製菓専門学校の学校案内でした。パンフレットを家で眺めているうちにふと「食事は栄養摂取のために大切なものだけれど、お菓子なんて食べなくても別に……。でもあれば人を幸せにすることができる。医者のように人の命を救ったり、弁護士のように法律で人を助けたりできるわけではないけれど、お菓子にはそれと同じぐらい人を幸せにできる力はあるし、喜ばせることができる!」という想いがこみあげてきて、お菓子の魅力に引き込まれていきます。
蔭山さんは小学校1年生から6年生まで図工の成績がずっとオール5で、もともと物づくりが得意だったこともあり、「自分の好きな分野で人を喜ばせることができる!」とそれまでとは全く違う生きがいに出会い、思い切って方向転換し、お菓子職人へのチャレンジをスタートさせました。
21歳で製菓の専門学校に入学、22歳で現場に入り11年間の修行期間を経て、32歳で今のお店「パティスリーオクサリス」をオープン。今年で8年目を迎えます。(2020年現在)
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オクサリスという店名は日本語で「かたばみ」と言われる植物の名前。28歳のとき、長男が生まれ5月人形に家紋を入れたいと思っていました。同じ時期、お父さまが他界し、お墓や実家の蔵で家紋を見かける機会も多く、今まで気にも留めていなかった家紋について調べてみることに。
すると家紋に「かたばみ」が描かれていました。昔は医療が発達してないので子どもが早く亡くなり、家が途絶えてしまうことが多くありました。そこでしっかり根を生やして生命力の強い「かたばみ」のように家が途切れることなく続き、子孫繁栄の願いが込められていることがわかりました。
それを知って「これだったのか…」と今まで気になっていた全ての点と点が線になります。開業するタイミングでそれらのことに気づいたこと、お店を地域に根を生やして発展繁栄させていきたいという気持ち、苦しいときでも雑草魂で頑張っていくという覚悟、「かたばみ」の花言葉「輝く心」のようにケーキやデザートでお客さまの心をパッと明るく輝かせたいという想いを込めて「パティスリーオクサリス」しかないなと名づけられました。
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ホームページやSNSでの写真にもこだわりがあります。毎月の新作デザートやクリスマスケーキなどオフィシャル的に普通売りして行くものはプロのカメラマンさんに撮影を依頼。その他は撮り方のコツを教えてもらいながら、シェフ自ら撮影。それをコツコツとクオリティを保ちながらSNSに投稿されています。そのかいあって、最近では「インスタにのっていたあのケーキが欲しい」という注文が入るそう。
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SNSからのご縁でなんと、あの「極上!スイーツマジック」からもオファーがあり、テレビ出演されました(NHK BS 2020年2月4日(火)放映)。この番組は一流のシェフが出演するクオリティーの高い番組です!
◇◇以下、番組レポートです◇◇
この番組は今をときめくトップパティシエが、毎回ひとつのテーマに沿って、極上スイーツ作りに挑戦するというもの。2人のシェフがくりだすあっ!と驚く発想とすご技が見所。スイーツを見ているだけでこんなにも幸せな時間が過ごせるものなのかと、すごくオススメ番組です。
今回、蔭山シェフが出演した回のテーマは「チョコッと旅するバレンタイン」。なんとあの福岡の名店中の名店「ジャック」オーナーシェフ大塚良成さんと共演。大塚シェフは世界最高峰のパティシエだけが加盟できるルレ・デセールの数少ない日本人メンバーでもありパティシエ界隈では知らない人はいないぐらい有名な方です。
まずはじめに、倉敷で注目なパティスリーの「皿盛りデザートの達人」として紹介された蔭山さん。幻のアマゾンカカオを使った新作バレンタインスイーツを作っていきます。
アマゾンカカオとは、南米アマゾンのごく限られた地域でしか取れないことから幻のカカオとも呼ばれていて、強烈な香りと酸味が特徴。
「一皿の中にいろんな調理法を試したい、いろんな温度帯を楽しみたいというのを考えていますので、冷たいシャーベットにしたり、焼き菓子にしたり、アマゾンカカオをいろんな表現で楽しんでもらえたらいいなと思っています」と蔭山さん。
出来上がった渾身の一皿は、アマゾンカカオの個性を温度の異なる3つのパーツで表現(シャーベット、ムース、ガトーショコラ)。食べる直前にサプライズということで、スイーツをのせたお皿の下に爽やかな香りを持つグレープフルーツの紅茶を注ぎ、そこへドライアイスを加える演出。
これには大塚シェフも感激した様子。
「見た目も、香りも味と一緒に楽しんでいただけるようなストーリーをもたせて作りました」と蔭山さん。
大塚シェフに「いいアイデアだ。なんかアマゾンっぽいね!チョコレートの味がストレートにきて、美味しい!!!」「きちんとしたものを召し上がっていただきたいという想いと、いろんな形でカカオを食べてもらいたいという気持ちがここまで手をかけてひとつのお皿を完成させていることに頭が下がります」と言われていました。
酸味、苦味、香りその個性が皿の上で花開く、幻の食材アマゾンカカオを使った新作バレンタインスイーツ 〜大地の恵み アマゾンカカオの誘い〜 はアートのように美しい作品でした。
収録中、終始緊張して「いつもこんな感じですか?硬くないですか?」と大塚シェフに突っ込まれていましたが、笑。憧れの人が横にいたらガッチガチになるのも仕方ないですよね。
目の前で完成されていくスイーツを楽しみながら、出来上がりの表情の美しさ、ふわっとおいしい匂い、五感でおいしさを味わうことができるアシェットデセール(皿盛りのデザート)。蔭山シェフの「お菓子への愛情」が伝わってきます。
お客さんは一口味わうと思わず笑顔がこぼれ、それを見たシェフも笑顔がこぼれる。そんな笑顔の伝播がおこる空間で過ごすひとときが幸せでないはずがありません。デザートを味わう=大切な人と心に残るときを味わう。「パティスリーオクサリス」はそんな場所でした。
岡山県に行かれる際は、美しい情緒あふれる倉敷美観地区を堪能しながら「パティスリーオクサリス」で極上のときを味わってみてください♪蔭山シェフ、お忙しいなか本当にありがとうございました!